特急すぺーしあ

数学が好きです。記載内容に間違い等がありましたらTwitter、コメント欄のどちらでも構いませんのでご連絡いただければ幸いです。

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私とインテジャーズと素数定理

この記事はインテジャーズ Advent Calendar 2017の17日目の記事です。

 

今日は私がインテジャーズと出会い、素数定理の初等的証明を理解するまでのお話を書きます。

 

素数定理とは

 素数に関する定理は膨大にありますが、これだけTHE・素数の定理!というものは私の知る限り素数定理だけです。素数定理が何なのかについては、

tsujimotter.hatenablog.com

こちらで知ることができます。

 

素数定理との出会い(2014年3月16日)

 一冊の本を買いました。私は新卒で入社した会社を数か月で辞め、実家に逃げ帰り働きもせず引きこもっていました。その中で私はAmazonで気になった本を片っ端から注文して読む、ということを繰り返していました。そんな中手を出した本が「はじめての数論」(ジョセフ・H・シルヴァーマン)でした。というのも私は学生時代、このサイトの問題に熱中していました。

projecteuler.net

Project Eulerといいます。大数学者レオンハルト・オイラーの名を冠したこのサイトには、数学とプログラミングで解く問題が多数掲載されています。数学おもしろいなー!と思ってはいましたが数学の本を買って学んだことこそありませんでした。そのため定理を理解せずプログラミングの道具としてのみ使用していました。自堕落な生活の中でそれをふと思い出し、一から学んでみたい!と思って先の本に手を出した次第です。*1「はじめての数論」にはプログラミングで解く練習問題も多数載っており、大変面白く読むことができました。

 前置きが長くなりました。「はじめての数論」第13章にそれは載っていました。以下「はじめての数論」(P.83)より引用します。

(中略)すると次の疑問,「\pi(x)/xはどれだけ小さくなっていくのでしょう」が浮かびます.答えは以下のすばらしい結果として得られており,19世紀数学の頂点の一つを示すものです.

定理13.1(素数定理

xが十分大きいとき、xより小さい素数の個数は近似的にx/\log{x}に等しい.すなわち,

$$ \displaystyle \lim_{ x \to \infty } \dfrac{\pi(x)}{x/\log{x}} = 1 $$

が成り立つ.

(中略)もっと最近になって,1948年に,ポール・エルデッシュとアトル・セルバーグは素数定理の「初等的な」証明を発見しました.彼らの証明が初等的だという意味は,複素解析を必要とはしていないという意味です.しかし,それは易しいということは意味していません.このため,その証明をここに示すことはできません.

 記載の通り証明が載っておらず大変もやもやしました。と同時に難しさが伝わりました。それから3年の月日が流れます。

 

素数定理、再び(2017年3月16日)

 無事引きこもり生活を終え、東京で新しい職場も見つかり一人暮らしをスタートさせていました。「はじめての数論」はというと途中で挫折してあっさり売却していました。東京での暮らしにも慣れた私は、趣味も無かったため一人の時間を退屈に感じていました。そんな中、ある時ふと「一度挫折したことに挑戦しよう!」という一念が沸き起こりました。今思うと何故あんなことを思ったのか不思議です。それからの行動は速かったです。すぐにAmazonで再び「はじめての数論」を購入しました。この記事を書きつつAmazonの注文履歴を見て驚いたのですが、何と二度目に「はじめての数論」を購入した日も2017年3月16日でした。ぴったり3年後ですね。

 それからは貪るように「はじめての数論」を読みました。途中再び素数定理に出会います。話は逸れますが、私は理解したいことリストをこんな感じでExcelにまとめています。背景が水色の項目は理解できたものです。

f:id:hang-nat-cool-so:20171208215211p:plain

素数定理をここに追加し、必ず理解しよう!と心に決めて先に進みました。それから5か月程して「はじめての数論」を読み終えました。

 

インテジャーズとの出会い(2017年8月)

 私はこちらのサイトである定理に出会いました。それがベルトラン・チェビシェフの定理でした。ちなみに先ほども登場したポール・エルデシュは高校生(!)のときに初等的な証明を与えたそうです。やばい。

mathtrain.jp

n2nとの間に素数がある。何か素数定理に近いものを感じ、これを理解しようと決めました。最初に読んだのはこちらでした。

http://www.chart.co.jp/subject/sugaku/suken_tsushin/70/70-1.pdf

分かりませんでした。確か補助定理3でつまづいた記憶があります。何かもっと易しい証明はないのか、と思ってネットサーフィンをしていた時に運命の出会いを果たします。

integers.hatenablog.com

そう、インテジャーズです。私はこの記事でベルトラン・チェビシェフの定理を理解しました。確かにn2nの間には素数が存在しました。他の記事も丁寧に証明が載っており、この人すげーな、と感じたのをよく覚えています。余談ですが、当時はこの記事を見て長いな!と思ったものですが、今見返すと短いと感じました。

 

MathPower2017(2017年9月)

 ある時TwitterでMathPowerなるイベントの存在を知りました。

mathpower.sugakubunka.com

10/7~10/8の2日間ぶっ通しで数学をするというクレイジーなイベントです。イベント内容を見ると、とある講演の紹介が目に留まりました。「素数の織り成す構造〜ガウスからグリーン・タオへ〜」。講演者を調べてみると、何とベルトランの仮説でお世話になったインテジャーズの執筆者ではありませんか!すぐにチケットを購入しました。

 講演では素数の無限性に始まり、人類の素数における発見が次々と紹介されました。その中にはもちろん素数定理もありました。講演では素数定理「人類の第一の勝利」と紹介されていました。ちなみに講演時に使用されたスライドはこちらで見ることができます。

integers.hatenablog.com

また、こちらも併せてご覧ください。私の大好きな記事です。先の講演と同じくらい私を奮い立たせたのがこの記事でした。

integers.hatenablog.com

該当の箇所を引用します。

しかし、です。


素数が確かにこの美しい秩序を持つ


と確信していいのは証明を理解した者のみです。特に、この定理は主張を理解することは簡単ですし、有用性も低く感じられるため、証明にこそ意義があります。

やばい。掛け軸にして家に飾りたいです。この言葉に心を打たれて「今すぐに素数定理を理解したい!」と思いました。

 

解析概論を読む(2017年10月10日)

 MathPowerが終わった数日後、複素解析を用いた素数定理の証明を理解しようと思い、「素数ゼータ関数」(小山信也)を買いました。この本には複素解析を用いた素数定理の証明、また、ディリクレの算術級数定理の証明が載っています。まずは一通り眺めました。案の定分からない言葉だらけです。留数、ローラン展開フーリエ変換・・・。30分後に解析の知識が足りないという当たり前のことに気づきました。そして翌日。「解析概論」(高木貞治)を買いました。解析学の名著だそうです。調べたところ大変難しい本だそうでしたが、気合があればいける!と根拠の無い自身を持って購入しました。ちなみに読み始める前は「数学ガールの秘密のノートシリーズ」(結城浩)の微分編、積分編を読んだ程度です。

 解析概論を読み始めたものの大変難しく、1ページ読むのに数時間はかかっていたように思います。そんな中、上限の性質についてどうにも理解できない点がありました。 悩みに悩み、思い切ってせきゅーんさんに質問をぶつけたところ、とても丁寧に教えてくださいました。それだけでなく、これからも分からない点があれば聞いてください、とまで言っていただけました。それからせきゅーんさんの助けを借りながら解析概論を読み進めていきます。

 ここで大きく方向転換をしました。当初は複素解析を用いた証明を理解したいと思っていたのですが、初等的な証明を理解することに決めました。と言うのも単純に早く理解したかったのです。この時期に身内が亡くなり、つくづく命が有限であることを感じさせられていました。とにかく死ぬ前に素数定理を理解したい。それから以下の記事で素数定理を理解しようと決めました。

integers.hatenablog.com

予備知識を洗い出し「解析概論」はそこを最低限カバーするように読むことにしました。それからようやく予備知識をすべて習得し終えます。

 

素数定理の初等的証明に挑む(2017年11月23日)

 ここからの内容はすべて書き残すことにしました。1つの記事を読む度に、途中の式変形や注意すべき事柄を追加した上でルーズリーフにまとめていきました。こんな感じです。

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インテジャーズ記事まとめ

途中何度も学習済みであるはずの事柄が分からなくなり「解析概論」を読み返しました。インテジャーズの記事を読みながらエアコンと電気をつけっぱなしで眠りに落ちたことが何日あったでしょうか。会社で強烈な睡魔に襲われたことも1度や2度ではありません。

 そして、2017年12月5日。ついに素数定理の初等的証明を理解しました。確かに素数定理は成り立っていました。初等的な証明が発表されてから69年。素数定理との出会いから実に3年半以上が経っています。やったよ引きこもりニート時代の私・・・。

 

終わりに

 目標があるということは素晴らしいことだと思います。自堕落に過ごした期間が長かった私は尚の事そう感じるのかもしれません。私はここしばらく仕事で悩みを抱えていたのですが、数学に没頭している時は少しも意識しませんでした。現実逃避と言う人もいるでしょう。もっとも数学は現実ですが。

 素数定理を理解できて飛び上がる程嬉しいかと言われればそういうわけではありません。ただ心が一旦落ち着いたというか、静かな満足感みたいなものに浸っています。自分の趣味は何にも活きないな...と悩んだこともありましたが、今は知的欲求だけのためにここまで来ることができて本当に良かったと思っています。何より、素数定理が確かに成り立つという確信を得ました。もしも忘れてしまうことがあったとしても、私が一度理解したという事実だけは消えません。これは私の生涯の大切な思い出であり、宝物です。

 最後に。素数定理の証明に関わった数々の数学者には心から敬意を表します。また、Twitterで度々私の質問に答えてくださった方々、本当にありがとうございました。

特に、せきゅーんさん。私の執拗な確認、要領を得ない質問に幾度となく丁寧に答えてくださり、本当に本当にありがとうございました。お陰様で素数定理を理解することができました。今後実りある研究ができますよう心からお祈り申し上げます。

 

2017年12月 冷房暖房の効かない自室にて

*1:両親は恐らく働いて欲しかったと思います。